小さい頃に時々、親に連れられてパンを買いに行った、地元の小さいパン屋のこと。
暖かくて本当に小さな店だった。商品はどれも素朴ながら品質が良く、子供ながらに、ここは好きな店で他とは違うのだとわかっていた。
さっきふとあのパン屋を思い出す夢を見た。
けれどおかしい。
目覚めて考えたら、
そんな店はそもそも存在しなかった。
駅のどちらの出口が近いかも知っているのに、パン屋のことを思い出す日があった記憶もあるのに、あの店の質感や暖かさはありありと思い出せるのに。
その実在だけがすっぽりと無いのだ。
本当はかつてあった店を、ただ忘れてしまっただけなのだろうか?いや、そんなことはないはずだ。
幻肢痛のように?
存在しないはずの感動だけが心に残っている。